くつやのマルチン

1999年クリスマス
くつやのマルチン 表紙

登場人物 マルチン
声(イエス様)
女の人
男の子
ニコライ
老人
おばあさん
ナレータ
くつやのマルチン 1
ナレータ トントン、タンタン、ギュッ、ギュッ、ギュッ。
マルチンは町の通りが見える地下室で、今日もくつ作りにはげんでいます。地下室の一つしかない窓からは、道ゆく人の足元だけが見えました。
マルチン あの黒いくつをはいていやはるのは……、セルゲイはんや。ずいぶん急いで歩いていかはる。
きっとだれとぞ待ち合わせでもしていやはるんやろう。
ナレータ マルチンは、はいているくつを見ただけで、だれが通ったか、すぐ分かります。
なぜって、仕事がていねいで、じょうぶなくつを作るマルチンに町の人はみんな、くつを作ってもらっていたのですから。
くつやのマルチン 2
マルチン おや。あの赤い小さなくつとちゃ色のくつは…、マトリョーナおやこでんな。子どもといっしょにお出かけでっか……。
楽しいやろうなぁ……。
あぁ、カピトーシカが生きておったら……。わてもむすこと二人で、魚つりにでも出かけられんのに……。
ナレータ ずっと前に、おくさんがなくなり、たった一人のむすこカピトーシカまで、病気でなくしてしまったマルチンは、さびしくてしかたがありませんでした。
マルチン わてにはもう、なんののぞみもおまへん!たった一人で生きておったって、楽しいことなんかあらへん。神さんはあんまりや!
ナレータ マルチンは神さまをうらみ、やがて教会にも行かなくなりました。
くつやのマルチン 3
ナレータ いなかからニコライじいさんがたずねてきました。
ニコライ マルチン、神さんのせいにするのは、まちごうとるぞ。
マルチン ほんじゃ、人間はなんのために生きていけばよろしんでっか?
ニコライ それや、マルチン。おまはんに命くれやはったんはどなたはんや?
マルチン ………。
ニコライ 神さんや、神さんが命をくれやはったんや。ほやから人は、神さんのために生きていかなあきまへん。
マルチン 神さんのために……?
ニコライ おまはんは本が読めるんでっしゃろ?聖書をこうて読んでみなはれ。神さんのために生きていくにはどないしたらええか、ちゃんと書いたる。
くつやのマルチン 4
ナレータ マルチンはさっそく、その日のうちに聖書を買ってきて、読みました。
マルチン ふしぎやなぁ。読んどると心が安まりよる……。こんなおちついた気持ちになりよったんは、カピトーシカが死んでから、はじめてや。
ナレータ それからマルチンは、朝から夕方までくつやの仕事をいっしょうけんめいしました。そして夜は聖書を読んでおいのりをし、イエス様のことを考えながら、ねむる毎日になりました。
マルチン!
くつやのマルチン 5
ナレータ だれかがよびかけるような声をきいて、マルチンはふり向きました。
マルチン どなたはん!
ナレータ ドアのあたりを見わたしても、だれもいません
マルチン、おいマルチン!
あした、通りを見ていなさい。わたしはおまえの所に行くから
ナレータ だれもいないのに、たしかに声が聞こえます。
マルチンはなぜか、イエスさまの声のように思えました。
くつやのマルチン 6
マルチン ほんまにイエスさん、来てくだはるんやろうか……。
ナレータ 次の日、マルチンは仕事をしながら、なんどもなんども、まどの外を見ました。
北の国の十二月。外はまっ白い雪がつもっています。ふと、一人の老人に、目が止まりました。雪かきにつかれて、ぼんやり立ちすくんでいます。
マルチン こんな寒い日に、外の仕事はたいへんやなぁ。
おじいはん、寒いでっしゃろ。どないどす。なかに入らはって、お茶でも飲んで行かはりません?
くつやのマルチン 7
老人 ふーう、からだのしんまであったまった。大助かりでさぁ。
マルチン さあ、もういっぱいどないどす?
老人 おおきに、おかげはんで、心も体もすっかりあったまりよったは。
マルチン それは、よろしましたなぁ。また、いつでも、よってくんなはれ。わては一人ぐらしやさけ、どなたはんぞ、たづねてくだはると、うれしいおます。
ナレータ 元気をとりもどしたおじいさんは、お礼を言うと、また雪かきの仕事にもどっていきました。
マルチン イエスさん、いつ来てくだはるんやろうか……。
ナレータ マルチンは外を気にしながら、またくつをぬいはじめました。
くつやのマルチン 8
ナレータ ピュー、ヒューーウ。
つめたい風が、道につもった雪をまいあげます。人びとは、みんな足早に通りすぎていきます。
しばらくすると、あなのあいたくつをはいた女の人がつかれた足取りで近づき、マルチンの家の前でしゃがみこんでしまいました。
女の人はボロボロのふくを着て、だいている赤ちゃんをくるむ毛布もありません。
マルチン こらあかん。あんなかっこうじゃ、赤んぼうが死んでしまいよる!
ナレータ マルチンは急いでドアをあけました。
マルチン おかみはん、どないしやはりましたんや?さあさあ、うちの中にお入りやす。
くつやのマルチン 9
マルチン さあさあ、だんろの前であったまんなはれ。赤んぼうに、ちちのましてやんなはれ。
女の人 わたいはもう、おちちが出まへん。朝から、なにも食べていまへんのや。
ナレータ おかみさんはパンとシチューをおなかいっぱい食べました。赤ちゃんもおちちをもらってごきげんです。
マルチン 古いが、よかったら、これ使こておくんなはれ。
ナレータ マルチンはタンスの中から、コート出してきてわたしました。
女の人 おおきに!なんとお礼を言わしてもらったらええか……。
マルチン かまへん。おかみはんがよろこんでくれれば、ほんとにうれします。
ナレータ マルチンはあたたかいコートにくるまった赤ちゃんとおかみさんを、ドアから見送りました。
マルチン イエスさんは、まだ来てくだはらへん……。
くつやのマルチン 10
おばさん こら、まて、どろぼう!
ナレータ とつぜんの大声に、マルチンは外に飛び出ました
おばさん さあ、けいさつにつき出してやる!
男の子 ぬすんでなんか、いないよう!はなしておくれよう!
ナレータ 男の子はリンゴ売りのおばあさんから、リンゴをとって、にげようとしたのです。おばさんは男の子のうでをつかまえて、どなっています。
マルチンは二人の間にはいって言いました。
マルチン おばはん、かんべんしたってんかい?この子はもう二度とせいへんさけ、リンゴのおだいはわしがはらうさけ。
おばさん なんで、ゆるすんよ。子どもをあまやかしたら、ろくなことあらへん。
マルチン この子かて、おなかへっとったんやろ。な、おばはん、わしらの考えやったら、そうかもしれへん。でも、神はんはゆるしてやんなはれと言ってやはる。わしらかって、ゆるし合わな……。
ナレータ おばさんは、男の子のうでをはなしました。
くつやのマルチン 11
おばさん ……ほんま、そうやな。
マルチン おい、ぼうや、もう二度とこんなことしたら、あかんよ。
男の子 うん、おばあちゃん、ごめんよ。
ぼく、おばあちゃんの荷物、持ってってあげる。
ナレータ おばあさんと男の子は、二人ならんで帰っていきました。       
くつやのマルチン 12
ナレータ まどの外はすっかり暗くなりました。
マルチンは仕事を終えて、ランプのあかりで聖書をひらき、しずかにきょうのできごとを思い出していました。
マルチン イエスさんは、来てくだはらへんかったな……。
ナレータ すると、どこからともなく
マルチンよ、わたしがわからなかったのか。
マルチン ど、どなたはんどす?
わたしだよ。あれはみんな、わたしだったのだ。
くつやのマルチン 13−1
声     あれもわたしだったのだ。
あれも、わたしだった。
くつやのマルチン 13−2
あれも、あれも、わたしだったのだよ
ナレータ みんなはマルチンにあいさつをすると、すーっと消えていきました。
くつやのマルチン 14
マルチン イエスさんは、ほんまに来てくだはった。
ナレータ マルチンのむねは、よろこびで、いっぱいになりました。
マルチン まずしい人、力のない人、びょうきの人や、家のない人の中にわたしはいます。

おわり


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